平成 8 年 |
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離れ住む 娘にあやめの 絵だよりで 生き方少し変えると告げる |
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細江仙子先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」入選 |
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パソコンに 手を染めたのは 寂しさか それとも挑み四十九の春 |
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母と茶を 摘めば小さき 日に還り 甘えたくなる 古里の畑 |
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結婚の 決め手は何と 尋ねくる 娘も岐路に 立ちて悩むか |
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細江仙子先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」入選 |
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兄逝きて 26年過ぎにけり 彼岸の安否 問いて聞きたし |
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霧雨に 気持ちよさそに 葉をぬらし 夏野菜たち すくと育って |
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父の日は 洋服をねと 娘に頼み 素敵に装う 夫を夢み |
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ひとり居て 寂しき夜に 灯を消せば 窓に蛍が 飛び来て光り |
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雨降れば ミシン取り出し 布を出し 好きな唄聞き 野良着をつくる |
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床の間に 夏椿生け 眺めれば 心清かに 静まりてくる |
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皆ともに 暮らした日々に 戻りたい 雨音強く 降る夕暮れは |
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石器持ち 生きた人らに 綿々と つながる山間 我も耕す |
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夕暮れの 寄る辺なき空を 泳ぐよに 右に左に 蜘蛛が糸引く |
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子と花の 数を数えた 遠い日が あさがおのつるに 絡まりて見え |
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雲がわき 四駆が走り バイク飛ぶ 飛騨の山あい 夏がかけゆく |
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細江仙子先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」特選 |
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細江先生評 : 夏の到来とともに、若者の移動がはじまり、活気に満ちてくる山峡の状態が歯切れよくうたわれ た。 初句と結句が効果をあげており、特に結句からは短い夏を惜しむ作者の気持ちがうかがえる。 |
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芽が出たよ 夫の蒔いた 白菜が 雨降る朝に 整列をして |
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野良に這い 生き来た母の 子だから 土と過せば心安らぐ |
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パソコンの 前に座れば それだけで 今を駆けてる そんな錯覚 |
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小瀬洋喜先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」入選 |
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いつか来る 花嫁の父と 呼ばれる日 夫はどんな顔で立つのか |
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姪の結婚式に出席して、、、 |
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おはようと パソコンメール 夫から 離れて暮らす朝の始まり |
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履歴書を 書いて 明日を変えようか 行きつ戻りつ四十九の秋 |
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新しき 職得て吾の海路図を 少し塗り替え 秋晴れを待つ |
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平成8年10月 線路を守る人たちの中でお仕事をさせてもらうことになりました。 |
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見てごらん 月がきれいと 娘の電話 眺めてうれし秋の夜のこと |
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1日を 湯船の中で ふりかえる 花丸つけて 終わる日なくて |
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老いて行く 母の心の 葛藤に 気づかぬふりでいたき時 あり |
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細江仙子先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」特選
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細江先生評 : 次第に老いてゆく日々に、さまざまな感情のもつれを見せる母。その母にある時は気づかぬふりをしていたいという。少しはなれて母の老いを受けとめており、偽りのない己の一面をうたった。
自分の心を理解してもらえたことの安心を細江先生から頂きました。 |
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母が着た 花嫁衣装 手に取れば 六十年の 月日こぼれて |
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ホノルルの マラソン完走 知らせくる 弾みし声の 姉は還暦 |
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細江仙子先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」入選 |
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紅ひいて 鏡に中に 微笑めば 楽しい一日 待ってる気して |
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七草が 過ぎて届いた 賀状には 牛歩で書いたと友の添え書き |
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平成 9 年 |
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娘から 夢は自分で かなえてと 言われて気付く親の身勝手 |
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巣立ちした 子の雛出せば 甘やかに 若い母の日部屋に広がり |
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この道を 迷わず行けば いいことが 待ってる予感こぶし花咲く |
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子を育て 吾を育てて くれた湖 客となりても汝は優しい |
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目を閉じて 春の雨音 聞く夜は 木の芽の 伸びる音も混じりて |
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浮かび出る 飛騨にこぶしの 咲く頃は 消せずに残る若い日の悔い |
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晩鐘を いつも感謝で 聞きたいと 五十が近き夕べに思う |
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風吹けば 風吹くままに 身をまかせ 線路の脇で 矢車草咲く |
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細江仙子先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」入選 |
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ポツポツと 八十路半ばの 母が茶を 摘む音 苗田の風が運んで |
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縁側で 夫の散髪するわたし 幸せってのは これかもしれない |
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小瀬洋喜先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」入選 |
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朝八時 インターネットで 見る地球 その中にいる夫も吾も |
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細江仙子先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」入選 |
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今小樽 バイクで旅に 出た娘 地図を広げて 吾も走らん |
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山川に 和太鼓響き 花火咲く 一夜のにぎわいふるさとは盆 |
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今今と 時を急いで 進む吾子に ゆるき流れも あるを見せたい |
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仕事終え 1人プールに 飛び込めば とびきり自由な山女になれて |
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幾つまで 二人は命貰えてか 老いを語って 雨の休日 |
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落ち穂食む すずめの群れを 見て過ごす 娘と心行き違った日 |
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細江仙子先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」入選 |
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見て見てと 千万の色で装った いつもの山の晴れがまし秋 |
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小菊咲き うれしい話し 一つ来て 日溜まりの縁ほかほか座る |
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闇を行く 車窓はずっと 我写す しかと見据えん五十歳今 |
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平成 10 年 |
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満天に 輝く星を 眺めつつ 夫と歩む 初詣道 |
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霜柱6センチ程 立つ土に しがみついてる春待つパンジー |
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職退く日 決めて夫は 新しい 明日をこたつで描いて見せる |
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細江仙子先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」入選 |
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春の夜に 問題一つ投げ掛けて 娘は親の 胸の内覗く |
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春の陽を 跳ね返し照る アルプスの 山に見とれて信州を行く |
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ゲレンデを 娘はとうに滑り降り 夫と我は いたわりつ追う |
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集落の 皆が揃いて 打ち出した 祭り行列 桜の中へ |
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カレンダー めくれば 更の5月来て あざみ野に咲き鯉空泳ぐ |
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母さんも 少し夢みていいですか 大き目標 見つけしあなたに |
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定年の 夫と目指す これからは 自給自足の つましき暮らし |
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この夏、夫は長年お世話になった会社を56歳で定年退職し2人の暮らしが始まりました。 |
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新しい 軽トラ 庭に鎮座して 新米農夫の 門出を祝う |
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野天風呂 娘とつかる 山の秋 昨夜の喧嘩も 湯の中にとけ |
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サラリーマン 退きて 三月の日を経ても 背広を着れば まだ過去が見え |
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野菊咲く 飛騨の大地に 足を乗せ 千秋さん飛ぶ宇宙を見上ぐ |
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細江仙子先生選 朝日新聞「岐阜歌壇」特選 |
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細江先生評 : 宇宙・地球というつかみ所のない対象は、ともすると感動をともなわない報告歌になりがちだが、この歌は「飛騨の大地に足を乗せ」とふる里に立つ己の位置を確かにしたことによって、血の通う自身の歌となった。はるかな宇宙でありながら千秋さんを身近に感じさせる歌である |
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